屋根裏(隔離生活)通信

ロックダウンの解除間もない、寝ぼけまなこのフランス・パリから。

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

さくらんぼが実るころ (上)

住んでいる建物のエントランスで4階の住人とばったり会った。ぼくは正面玄関わきの使用人用出入り口から自分の自転車を引っ張り出してきたところ、彼女は外から帰ってきたところだった。「ようやく見つけた!」彼女の屈託ない声がホールにこだまする。「コ…

ぬくもり ~コンフィヌマンのテーマ~

フランスのとある大手スーパーのテレビCMを素敵だなあと思って見ている。ぼくの部屋にはテレビがないので知るのが遅れてしまったのだけど、ロックダウンの解除に合わせて電波に乗ったものらしい。 Intermarché - Je désire être avec vous 流れているのはニ…

木漏れ日と花

オーボエ奏者は行儀よく、カラオケおじさんのダンサブルな曲が終わるのを10歩離れて待っていた。曲がアウトロに差し掛かり、おじさんが次のナンバーに移るべく機材の上にしゃがみ込んだ瞬間、オーボエはここぞとばかり大股でおじさんに歩み寄る。(この記…

市場の寸劇

市場の正面に柵が敷かれて、以前のようにふらりと勝手に立ち入れないようになっている。警備員が人数を加減しながら中に通しているらしい。ぼくの前にはすでに30人ほどの買い物客が行列を作っていた。さいわい皆マスクをしている。ロックダウンのはじめご…

マルシェへ下る道

ロックダウンが解除されてから初めての日曜がやってきた。水色の朝の空を見上げながら、毛布にくるまって2時間あまりを無為に過ごしたところで、そうだ市場に行かなくちゃと思い出した。日曜朝の市場での買い出し。パリに来てから何年間も従ってきた習慣な…

ステイホームはツイートを変える

こんにちは。いつも当ブログを覗いてくださってありがとうございます。皆様がくださった反応のおかげで、長きに及んだ隔離生活を発狂せずに乗り切ることができました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。とはいえこのブログ、「屋根裏(隔離生活)通…

ジャズとペダルとノートルダム (下)

自転車を降りて転がしながら河岸へと下る階段に近付く。久方ぶりに間近で目にする大聖堂はやはり傷跡が痛ましかった。蜘蛛の巣のように張り巡らされた鉄骨の足場といい、あちこちでむき出しになっていて、聖堂のくすんだ石の色から変に浮いている生木の補強…

ジャズとペダルとノートルダム (上)

前回の日記では書ききれなかった良い報告がふたつある。ひとつめは老齢のモデル、ロディオンの無事が確認されたこと。夜になってから折り返し電話がかかってきて、ぼくが気をもんでいたことに大層驚いたようだった。呑気な声で彼が言うには、「どうしてそん…

祝福の日 (その夕べ)

かくしてぼくらはコーヒーを求めて混沌の街をさまよい始めた。 とはいえ、おいしい一杯にありつける確率はそんなに高いほうともいえない。飲食店はまだテイクアウトでの営業しか許されていないため、カフェはみなシャッターを下ろしたままなのだ。営業許可が…

祝福の日 (その昼のこと)

「元の世界にはもう戻れない」と覚悟を求める者がいる一方で、「日常への回帰」の旗をせわしげに振る者もいる。路地に降り立ったぼくが見たのは両者の主張のせめぎ合いのような街の光景だった。 昨日までとは比較にならない数の歩行者が大通りを行き交ってい…

祝福の日 (その朝のこと)

「フランス語のいかなる辞書にもdéconfinement(デコンフィヌマン)なんて言葉はない。『コンフィヌマンの終わり』のことを言いたいのなら、無闇に新語を作らずそのままfin du confinement(ファン・デュ・コンフィヌマン)と言うべきではないか」――ロックダ…

激しい雨が降る

きのうの夜、パリを嵐が通り過ぎた。雷をともなう激しいもので、ニュースの伝えるところでは3週間ぶんの降水量にあたる雨が数時間のうちに降ったという。郊外のいくつかの地域では家屋のなかに至るほどの浸水が起きた。 屋根を乱打する大粒の雨音をぼくはベ…

隔離生活のエピローグ

自宅療養期間を終えて2週間ぶりに外出をしたら、世間の空気がすっかり変わっていたという話を前回の日記で書いた。 この現象はパリに限ったものではなく、ちょうど河川敷のつくしのように4月初めの週末から全国で一斉に顔を覗かせたものらしい。メディアは…